第36回 日本骨代謝学会「骨と軟骨と腱・靭帯の織りなす生理と病理」Meet the Expert 講演
長崎で開かれた日本骨代謝学会にて 浅原教授が、『骨と軟骨と腱・靭帯の織りなす生理と病理』という題でMeet the Expert講演を行いました。
開催日:2018 年 7月 26日(木)
会場:長崎ブリックホール
抄録:骨・軟骨・腱・靭帯は機能的かつ強固につながることによって、運動機能を発揮する。その障害として、変形性関節症、関節リウマチなどの関節疾患は、軟骨組織の破壊によって、日常生活における運動機能の制限を引き起こすだけでなく、激しい疼痛を伴う疾患であるが、その根治治療はまだ開発されておらず、更なる分子レベルでの軟骨組織の恒常性維持機構の理解が必要とされている。近年、タンパクをコードしない、いわゆるノンコーディングRNAに注目が集まっている。中でも、長さ20から25塩基ほどのマイクロRNAの研究がRNA階層における医学・生物学研究を牽引している。我々は、miR-140が軟骨の分化と代謝において重要な機能を果たすことを発表し(Miyaki et al, Gene Dev. 2010)、関節炎におけるマイクロRNAの研究に先鞭をつけてきた。このmiR-140はWWP2というユビキチンライゲースをコードする遺伝子のイントロンに存在することが知られており、最近まで、その両者の関係については、未だ明らかでなかったが、CRISPRを用いた詳細なノックアウトマウス解析により、miR-140だけが軟骨の発生に関わるフェノタイプに関わることを示し、マイクロRNAがドミナントな機能を示す例を示したばかりか、従来のジーントラップによる研究解析結果の再考を促す結果を得た(Inui et al, Nat Cell Biol in press)。マイクロRNAの研究の律速段階の一つとなっているのが、その多彩なターゲット制御機構とターゲットの同定の困難さであるが、我々はこの解決手法の一つとして、細胞ベースでノンバイアスにターゲットの同定を行うライブラリーを作成、これによって、関節炎や乳がんに関わるマイクロRNAのターゲットの同定に成功している(Ito et al, PNAS 2017)。さらに、マイクロRNAを用いた関節炎治療の開発において、いくつかのブレイクスルーとなる知見を得ており、腱・靭帯をあわせ、これら研究の現況を紹介し、骨関連疾患治療への応用について議論したい。